2021/08/27
Weekend Theater ID:1316
おはよ~。
夏の夜空、土星と木星が
都会の空でもよく見えます。
さて、今週もいよいよ週末。
一週間お疲れ様でした。
忙しい中、一服の清涼剤。
ご存知、金曜ホラー劇場。
お楽しみください。
今度の依頼人は少し変わった老人だった。
高級テーラーのスーツをきっちりと着こなし、
長年使い込んでいるであろうステッキの
持ち手の彫刻には宝石らしきものがついていた。
黒のボルサリーノをかぶり、
顎を少し上げた顔から覗く目は鋭い。
老人は帽子を脱いで若い女性の写真を
机に差し出した。
「この娘に花束を渡してもらいたい。」
まじめな顔でその老人は言った。
フィリップ・マーレイはため息を付きながら、
だがしかし真摯に言った。
「そういう事は自分でするものだと
女性に詳しい男が教えてくれたよ。
少なくとも私のようなしがない探偵に
頼む事じゃない。」
老人は唇の端を少し上げ、
考えているような遠い目をしたが、
足を組んで座っていた姿勢を正した。
「探偵は口が堅いと聞いてる。」
彼は名乗った。
老人は有名プロダクションの谷町で、
探偵家業をしていれば、少なからず
耳に入る名前の組織のボスだった。
依頼を断れば明日には行方不明者の
リストに名前が載るかもしれない。
「名乗って頂いたのは感謝する。
ただ、脅しのために名乗ったのだったら
それ以上は聞かないのでお帰り頂きたい。」
「骨があるとは聞いていた。事情は話さない。
ただ、その娘は私の命だと言うことは知っておいてくれ。」
老人は法外な金額の書かれた小切手を
マーレイの前に置いた。
自分の命との言葉に、マーレイは愛を感じた。
「悪いが、金額はその半分にしてくれ。
事情が分からない事に、私は命をかけるつもりはない。」
老人は大笑いをして小切手を書き直した。
「払い手が値切る事はよくあるが、受け取り手が
値切ったのは初めてだ。」
マーレイは老人が用意した大きな花束を持って
劇場に行った。その娘、歌劇ではちょい役だったが、
演技の真摯さが輝いていた。歌劇が終わり、
カーテンコールでマーレイは大きな花束をその娘に渡した。
娘はちょっと躊躇したが、花束に入っていた書類を
見て嬉しさのあまり泣き出した。
「そう。君なら気づいていただろう。彼女は君の察しの通り
事情があって名乗れない私が、長年『あしながおじさん』として
陰ながら援助していた私の娘だ。敵対する組織の
映画会社へ所属するため努力している事を知り、
映画会社と秘密裏に交渉した。多少の犠牲はあったが、
彼女の喜ぶ姿に比べたら微塵も惜しくない。」
再びマーレイの事務所で嬉しそうに老人が語った。
「で、歌劇も見たんだろう?どうだったかね?
素晴らしいSHOWだったかね?」
マーレイは小さな声で言った。
「しょうでもない・・。」
※実在の人物、団体、事件、商品とは関係ありません。